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ケン・フォレット原作「巨人たちの落日」の微妙な理由

イギリスのサスペンス作家、ケン・フォレットの最新作「巨人たちの落日」が好評だ。

去年の9月に洋書が出版されたとき、私は洋書版をすぐ購入していたのだがあまりのボリュームについ敬遠していたら翻訳がすでに発売されてしまった。

あわてて手元にある原著版を読んでみた。
たしかに滅法、面白かった。しかし、フォレットの同じく戦争を扱った傑作「針の目」(こちらは第二次大戦が舞台ではあったが)と比べるとどうしても見劣りする気がする。

誤解しないでほしいが、友人から『「巨人たちの落日」はおすすめ?』と聞かれたら、迷わず「おすすめ」と答えると思う。でも、「針の目」と比べると・・・・。

今回はそのあたりを検証してみたい。ネタバレにつながることは書かないので読もうか迷っている人はご心配なく。


(こちらは出版社の「巨人たちの落日」の予告編映像)
「巨人たちの落日」は第一次世界大戦をめぐる人間模様を描いている。
第一次世界大戦はなんとなく日本人のわれわれには馴染みが薄い気がする。主戦場はヨーロッパだったし、日本は参戦したといっても中国の租借地をめぐる争いに若干参加した程度だったからかもしれない。

この物語は読み物としては非常に面白いから、これ一冊を読むだけで第一次世界大戦の詳細から当時の社会的背景まですんなりと理解できる。歴史の教科書を10冊読んでも理解できない内容がこれ一冊で楽しく理解できるほど正確かつ娯楽性もたっぷりに書かれている。

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この作品の中にはウィンストン・チャーチル、レーニン、トロツキーをはじめ数多くの歴史上実在した人物が登場する。
作者のフォレットはあとがきに「実在の登場人物が架空の登場人物と接する場合には、その正確さにこだわって、実在の人物が実際にした発言(つまり記録に残っている発言)をもとに架空の登場人物と会話するようにした」と語っている。それだけ、歴史的事実にこだわった作品といえる。
しかし、一方でこの作品の最大の弱点になっているのが、その歴史に対する正確さのこだわりだ。

歴史上の実在の人物の発言で記録に残っているもの、というのはある程度、歴史の中で重要な役割を果たした発言であることになる。したがって、この小説の架空の登場人物たちは、実在の人物たちの歴史的な重要な意思決定の場にどうしてもかかわっていくことになる。

アメリカでは架空の登場人物の一人であるガスはウィルソン大統領の意思決定に重要な役割を果たす。また、ソ連を舞台として活躍する架空の人物グレゴリはレーニンやトロツキーと密接にかかわっていく。
しかし、彼らは歴史に大きくかかわっていながら、この歴史への正確さが足かせとなって、実際の歴史に沿った動きしかできなくなってしまっている。
結果として、一方的に実在の人物の発言を聞いて納得しているだけ(つまり、そこに架空の人物がいる必然性がない)か、あるいは実在の人物の歴史的な意思決定に大きくかかわっていたことになってしまい、逆に嘘くさくなってしまっている。

これは同じくフォレットの傑作「針の眼」とは対照的だ。

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(こちらは映画版・主演は「24」のキーファー・サザーランドのお父さん、ドナルド・サザーランドだ)



「針の眼」はノルマンディー上陸作戦直前に連合軍の上陸地点を事前につかんだナチスのスパイが本国にそれを伝えようとする。その一方でスパイの正体に気づいた英国人女性がそれを阻止すべく極限の環境の中で立ち上がる。

これは「ノルマンディー上陸作戦」という歴史的事実の中で、大きくフィクションが入り込み、「もしかしたら歴史を変えるかもしれない」状態に向かってサスペンスフルに物語が展開する。登場人物たちは実在の人物とからむことはほとんどないので、「巨人たちの落日」に見られるような問題点は存在しないのだ。

そして、フィクションが前面に出ているので、読者はハラハラすることになる。

繰り返してしまうが、「巨人たちの落日」は決してつまらなくはないのだ。

ちょっと不思議な例えかもしれないが、その読後感は手塚治虫の「火の鳥」の「鳳凰編」と「乱世編」を読んだときの読後感と似ている。
「鳳凰編」が「針の眼」としたら「乱世編」が「巨人たちの落日」に相当する。

「火の鳥・乱世編」では物語はほぼ「平家物語」に沿って展開する。

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物語の中で永遠の命を与える「火の鳥」は登場しない。かろうじて「永遠の命」を望む平清盛が「火の鳥」を探させる件があるが、結局、清盛のもとに届けられるのは普通の鳥だったというオチになる。

したがって、この「火の鳥・乱世編」では源義経や弁慶に関しての新解釈が提示されるものの、結局は源平の合戦をはじめとする実際の歴史をなぞっている感じがしてしまい、面白いが「火の鳥」として物語がうまく噛み合っていない印象を受けてしまう。

一方の「鳳凰編」は大仏建立という歴史的事実の中で架空の登場人物である若き彫り物師二人の野望、葛藤、改心が描かれ、それに永遠の命をもたらす「火の鳥」が極めて効果的にからまり、命とは?輪廻とは、といった哲学的なテーマにいたるまでが論じられる。

明らかに「鳳凰編」のほうがテーマ性、物語性、どちらをとってもダイナミックに感じられる。
同じ理由によって、「針の眼」は「巨人たちの落日」よりダイナミックで面白く感じられるのかもしれない。

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しかし、フォレットは「巨人たちの落日」の前作である「大聖堂」あたりから、それまでの戦争スパイ小説のジャンルを捨てて、新たな「歴史的群像劇」の方向性を目指しているようだ。

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しかし、一方で歴史的事件を舞台にした群像劇というのはすでに多くの傑作があるから、独自色は難しいのかもしれない。
ハーマン・ウォークの「戦争の嵐」などは好例だろう。

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日本でも同じジャンルとしては山崎豊子の「二つの祖国」が傑作として挙げられるかもしれない(ただ、「二つの祖国」の場合には盗作疑惑があるのでストレートに「傑作」というのに抵抗はあるが・・・・:これに関しては以前の当ブログの記事を参照くださいこちら
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フォレットは、実在の人物を積極的に架空の登場人物とからませることで新鮮さを狙っているのかもしれない。つまり、弱点を知った上で敢えてこの手法をとった可能性は否定できない。

さて、この「巨人たちの落日」、この後2作の続編が予定されているそうだ。
次は第二次世界大戦、その次は東西冷戦が舞台になるとか。

いずれにせよ、新作が出たら必ず読みたいところだ。


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  • Date : 2011-05-27 (Fri)
  • Category : 書籍
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