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「ホドロフスキーのDUNE」にまつわるDUNEのおはなし

「ホドロフスキーのDUNE」を見てきた。

すばらしい作品だった。老いてなお、芸術へのこだわり創作への情熱を見せるホドロフスキー監督の姿と生き様には感動を覚えた。

ホドロフスキー監督版DUNEに関してはずいぶん前に調べて発表したことがあった。

偉大な監督に敬意をこめて、そのときの文章の抜粋を今回はこちらで公開したいと思う。

内容に若干、間違い等があるかもしれないが、今回の「ホドロフスキーのDUNE」が製作されるずいぶん前に独自で調べたのでご容赦いただきたい。

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●『デューン・砂の惑星』映画化への道のり
 『デューン・砂の惑星』の原作はアメリカのSF作家フランク・ハーバートが一九六三年に発表したSF大河小説である。その物語は遥かな未来の大宇宙を舞台とし、宇宙で最も貴重な資源である香辛料、メランジの採掘権を巡るアトレイデ公家とその宿敵ハルコネン家の権力闘争が描かれる。さらにそこに宇宙に君臨する皇帝や宇宙航海技術を独占する航宙士組合(ナビゲーターギルド)の利害関係や陰謀の数々が複雑に絡まりあう。そして、最終的には物語の主人公であるアトレイデ公家の一人息子、ポールが人々に待ち望まれた救世主(メシア)となり物語は幕を閉じる。
 主人公が最終的に救世主(メシア)となったり、ベネ・ゲゼリットなる修道女組織が登場したり、かなりキリスト教文化に根ざした作品といえる。


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(こちら原作。矢野徹氏の名訳がすばらしい)



 ここで我々が明確に理解しておかなければならないのはこの小説『デューン・砂の惑星』が児童文学であるということである。しかし、早川出版より出版された日本語版においてはSF作家の矢野徹が実に重厚感のある名訳を行ったため、我々日本人にとって『デューン・砂の惑星』が児童文学であるということはなかなか理解しにくい。しかし、原文で読むと、確かに物語の設定は複雑ではあるものの、文章そのものは極めて平易で読みやすい。そのため小説『デューン・砂の惑星』は欧米では十代の若者に広く愛読されている。英国において複雑な設定でありながら児童文学の金字塔であるJRRトールキンの『指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)』があるようにアメリカには『デューン・砂の惑星』があると考えてよいだろう。


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 さて、この『デューン・砂の惑星』はデイヴィッド・リンチが映画化に成功するまでに実に様々な人々が映画化に挑んでは失敗をつづけた。

 最初に映画化を試みたのは映画『猿の惑星』のプロデューサー、アーサー・P・ジャコブであった。
 ジャコブは一九七一年から三年間の契約で『デューン・砂の惑星』の映画化権を手に入れた。ジャコブは『アラビアのロレンス』などで知られる映画監督、デビッド・リーンに監督を打診していたものの、自らがプロデューサーを務めた『猿の惑星』のヒットに心を奪われてしまい、その続編を作ることに夢中になってしまった。結局『猿の惑星』シリーズは五本が製作され、その後ジャコブは『猿の惑星』にその命を捧げたかのように心筋梗塞で急逝してしまった。こうして『デューン・砂の惑星』の映画化は宙に浮いてしまった。


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(そして日本でもあの小松左京監修の「猿の軍団」が製作されたのだ!)

 この宙に浮いた『デューン・砂の惑星』の映画化権を続いて手に入れたのはカルト西部劇『エル・トポ』などの監督で知られるフランス在住の映画監督のアレジャンドロ・ホドロフスキーであった。


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 ホドロフスキーはジャコブとは異なり『デューン・砂の惑星』の映画化に熱心に取り組んだ。パリ在住の億万長者から資金援助を取りつけ、脚本から絵コンテまで完成させた。また、デザイナーとしてフランスの代表的漫画家でありイラストレーターであるジャン・ジロー・メビウスを起用したり、SFアーティストのクリス・フォスや後に『エイリアン』のデザインで世界に知られるHRギーガーを採用し、これらのデザイナーたちに無数のイメージアートや絵コンテ、デザイン画を製作させた。


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(ホドロフスキー原作のこちらの作品も幻の「DUNE」が多数引き継がれているのだ!必読!!絶対に面白いぞ!!)

 ホドロフスキーはあくまでも自分流に映画を完成させることにこだわり、そのために、原作にはこだわらない方針を採った(そのため原作者、ハーバードとの関係は必ずしもよくなかった)。ホドロフスキーの脚本では、物語の主軸はアトレイデ家と皇帝の対立に置かれ、原作の宗教色(キリスト教色)をよりいっそう強くしたものだった。ホドロフスキー版では主人公ポール(救世主)の父親であるアトレイデ公爵は不能者(去勢)であると説明され、そのためポールの母はイエス・キリストと同様に処女懐胎であるとされた。
 さらにキャスティングに関しても皇帝役に、大胆にも二十世紀を代表する画家であり芸術家であるサルバドール・ダリを起用しようとした。ダリは『柔らかい時計』や『変形した肉体』などのシュールレアリズムの傑作を生み出す一方で様々な奇行を演じたことでも知られている。そんなダリは『デューン・砂の惑星』への出演にあたっても実に奇妙な条件をつけた。ダリの出演期間はわずか七日間(この理由をダリは「神は世界を七日間でつくったから」と説明した)。そして脚本は読まず演技指導は一切受けない。つまり、ダリは七日間の撮影期間中、自分の思うままに喋り演技をするからそれを勝手に撮影しろというのだ。しかも出演料は一時間あたり十万ドルを要求した。それでもホドロフスキーはこの条件を飲んだ。それだけダリの起用を切望していたのだろう。しかし、ダリの奇行はこれだけに留まらなかった。ダリは排便の際、便と尿が便器の中で混ざり合うことを極度に嫌っていた。そこで『デューン・砂の惑星』の中で皇帝のトイレシーンを撮影することを主張し、その際、自分でデザインした「排便時に便と尿が混ざらないイルカ型便器」を使うことを主張した。


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 この段階にいたりホドロフスキーの『デューン・砂の惑星』の映画化プロジェクトは混乱の様相を呈してきた。
 結局、一九七六年の秋、何枚ものデザイン画に絵コンテ、脚本が準備され撮影準備だけのために二百万ドルの大金が投じられたがホドロフスキーはついに『デューン・砂の惑星』の映画化を断念した。

 ホドロフスキーに続いて『デューン・砂の惑星』の映画化権を獲得したのはイタリア出身のプロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスだった。ラウレンティスはイタリアでフェデリコ・フェリーニやロベルト・ロッセリーニといった映画監督たちの作品を世に送り出したが一九七〇年代から活躍の場所をアメリカに移していた。七三年には『セルピコ』のプロデュースで成功を収め、その後も七六年版『キングコング』や『オルカ』、『フラッシュゴードン』などをプロデュースしている。近年では『羊たちの沈黙』の続編にあたる『ハンニバル』や『レッド・ドラゴン』を製作している。


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(行け!フラッシュ!公開当時、このブリキ感覚に戸惑ったものだ)


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(最近では「テッド」の中で「フラッシュ・ゴードン」が引用されていて笑った)

 さて、『デューン・砂の惑星』の映画化権を獲得したラウレンティスはまず原作者のフランク・ハーバードに脚本の執筆を依頼した。ホドロフスキーが自らのコンセプトに基づき『デューン・砂の惑星』を映画化しようとしたのに対し、ラウレンティスはあくまでも原作に忠実であろうとした。これは、原作者を尊重するというより、原作の熱狂的なファンが多いことを知っていたラウレンティスがファンの期待を裏切らないように原作者のお墨付きを得ようとしていた、と考えるのが普通だろう。
 しかし、原作者のハーバードが書き上げた百七十五ページにもおよぶ脚本は全く使い物にならない代物だった。

 さて、ラウレンティスが『デューン・砂の惑星』の監督として起用したのは『エイリアン』の監督で成功を収めたばかりのリドリー・スコットだった。スコットは脚本家とともに三回にわたって脚本の改訂をすすめたがうまくいかず、結局、『デューン・砂の惑星』の監督を諦めてしまった。


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(スコットの紹介ではこの本がよくまとまっていて読みやすかった)

 再び『デューン・砂の惑星』の映画化は宙に浮いてしまった。しかし、一九八一年にラウレンティスの娘であるラファエラ(この後、『デューン・砂の惑星』の実質的プロデューサーに就任する)が当時公開されたばかりのデイヴィッド・リンチ監督の『エレファントマン』を見て感動し、このデイヴィッド・リンチこそが『デューン・砂の惑星』の監督にふさわしいと父親に進言した。娘の進言にしたがって早速『エレファントマン』を見た父親もまた感動し、デイヴィッド・リンチに『デューン・砂の惑星』の監督を打診した。


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 しかし、おそろしいことにこの父娘はリンチの処女作である『イレイザーヘッド』を見たことがなかった。
 ここでリンチの経歴を確認すると、リンチは一九六五年にボストン美術学校を中退し、その後、ペンシルバニアにあるペンシルバニア・アカデミー・オブ・ファインアーツに進学している。ここを卒業後、映画の製作を開始し短編映画『Six men getting sick』、『アルファベット』、『グランドマザー』を立て続けに自主製作で製作し、一九七二年から初の劇場映画となる『イレイザーヘッド』の製作を開始している。『イレイザーヘッド』は完成までに実に五年の月日が費やされたが、完成後、評論家を初めとして高い評価を受け、カルト的なファンを多数生んだ。


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 この『イレイザーヘッド』という作品は実に奇妙な作品である。ハリウッドの娯楽映画のような強い物語性はない。そこにあるのはリンチの芸術的イメージの集積だけである。奇妙に変形した新生児やラジエイターの中のオタフク女性など、もともと画家を志望していたリンチの絵画的イメージが色濃く反映されている(リンチは画家のフランシス・ベーコンに強く影響を受けており、この変形した新生児などはベーコンの描いた『十字架の下の形体のエチュード』そっくりである)。


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 そして、この『イレイザーヘッド』を見た俳優、映画監督、プロデューサーのメル・ブルックスが自らプロデュースした『エレファントマン』の監督にリンチを起用した。『エレファントマン』には『イレイザーヘッド』とは異なり強い物語性がある。十九世紀末にイギリスに実在した難病(プロテウス症候群に神経線維腫が合併した極めて稀な症例)により全身が著しく変形し「象男(エレファントマン)」と呼ばれた青年の物語である。圧巻はロンドンのビクトリア駅で人々の好奇の目に追い詰められたこの青年が「わたしは動物ではない、人間だ!」と悲痛な叫びをあげるシーンで、鑑賞者の心を強く揺さぶる。映画『エレファントマン』はこのように強く物語性もあり、その上、観客の心に強く訴えかけるのでリンチの数々の異色映画の中では趣が異なるようにも見える。しかし、これもやはりリンチ的な作品といえる。一見すると感動的な映画を装ってはいるものの、よく見ると実際に描かれているのは人間の醜さであり、難病により変形した主人公の姿も『イレイザーヘッド』に登場した新生児のイメージにつながっている。


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(まあ、感動といえば感動作。リンチは主演のアンソニー・ホプキンスに嫌われて苦悩したそうだ)

 このようにリンチの映画は表面的な鑑賞だけでは理解できない多重構造を有している。したがって『イレイザーヘッド』を見ることなく『エレファントマン』だけを見て感動作と判断してリンチを『デューン・砂の惑星』の監督を打診したラウレンティス父娘は大胆な決断をしたともいえる(実際、この父娘はのちに『イレイザーヘッド』を見て毛嫌いしている)。
 さて、リンチはもともとSFにはあまり興味がなく『デューン・砂の惑星』の監督を打診されたときも原作の存在をまったく知らなかった。電話で監督の打診を受けたリンチは「なんだい、そのJUNE(六月)ってのは?」と聞き返したほどである。
結局、リンチは『デューン・砂の惑星』の監督を引き受けるのだが、注目すべきは、ちょうど同時期に『スター・ウォーズ』シリーズの三作目『ジェダイの復讐』の監督をジョージ・ルーカスから打診されていることである。ルーカスの場合、ラウレンティス父娘とは異なり、リンチの『イレイザーヘッド』に感銘を受けて監督を打診したと言われている。しかし、リンチは『ジェダイの復讐』を断り『デューン・砂の惑星』を監督することを選んだ。

さて、監督を引き受けたリンチは、まず自らの手で脚本を書き上げた。このリンチの手による脚本は長大な原作をほぼ完璧に網羅したもので、原作者のハーバードも満足する完成度だった。これでラウレンティスが欲していた「原作者のお墨付き」が確保されたことになる。この「お墨付き」は映画の商業的な成功を得る上で欠かすことのできないものだったと言える。こうして『デューン・砂の惑星』は紆余曲折の末、ついに撮影が開始されたのだった。


●完成した作品としての『デューン・砂の惑星』
さて、完成した『デューン・砂の惑星』は一九八四年十二月に一般公開されたが、公開直後から酷評の嵐に曝された。好意的に捉えたのは『ニューズウィーク』誌のデビッド・アンセンとSF作家のハーラン・エリソンの二人だけだった。


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(いや、そんなに悪い映画じゃないですわ・・・個人的には好きな作品だ)

興行成績に関しても『デューン・砂の惑星』は惨敗であった。総製作費が四千万ドルに達したにもかかわらず、公開直後の週末のチケットの売り上げはわずか六百万ドル、二週目の観客動員数はさらに落ち込み、もともと少なかった一週目の二十パーセントに満たない始末だった。最終的なアメリカ国内での総売上は三千万ドルであり、製作費の回収もできない始末だった。その前年に公開された『ジェダイの復讐』が製作費三千二百五十万ドルに対し全米興行収入が二億五千万ドルにまでのぼったことを考えると『デューン・砂の惑星』の興行成績にける失敗の深刻さが理解できる。
この『デューン・砂の惑星』の興行的および批評的失敗を受けて映画ファンやSFファンから、デイヴィッド・リンチが『ジェダイの復讐』を断って『デューン・砂の惑星』を監督することを選択したことを「映画史上、最も愚かな選択」とあざ笑う声があがった。しかし、本当にそうだろうか。筆者はこのリンチの選択を逆に「リンチのキャリアにおいて最も賢明な選択」だったと考える。
しかし、リンチはなぜ『ジェダイの復讐』を監督することを拒否したのだろうか。これについてリンチは一九八五年に行われたインタビューで以下のように答えている。

「ルーカスはすばらしい人だった。彼は生きている伝説だ。彼のことはとても好きなのだけど彼のプロジェクトというのはあくまでも彼のものであって、私は自分のものがやりたかった。ルーカスのイマジネーションの中で映画はもうすでに完成していた。私が監督をやろうが誰か他の人がやろうが、完成する映画に大差がなかっただろう」

 つまり、リンチのように強烈な個性があり、その個性を芸術として映画の中に表現できる人物にとっては他人(ルーカス)のイメージを代弁するだけの雇われ監督をすることは耐えられなかったということである。
 実際、ルーカス製作総指揮のもとアーヴィン・カーシュナーが監督した『帝国の逆襲』とリチャード・マーカンドが監督した『ジェダイの復讐』を見る限り、この二人の監督の個性や芸術性がどれほど反映されているか甚だ疑問である。実際、リンチが指摘している通り誰が監督をしても似たり寄ったりの作品が出来上がった可能性が高い。アーヴィン・カーシュナーとリチャード・マーカンドの二人の監督の『スター・ウォーズ』以後のキャリアを見ても、この二人にとって『スター・ウォーズ』を監督したことがポジティブに働いたとは言いがたい。カーシュナーの『帝国の逆襲』以後の代表的な監督作は『ネバーセイ・ネバーアゲイン』と『ロボコップ2』というどうしようもない二作品くらいだろうか。それでもカーシュナーはまだいい。マーカンドにいたっては『ジェダイの復讐』以後、四本の映画を監督しているものの、あまりにもマイナーな作品で現在では鑑賞するのも困難なほどである。
 では、リンチが『ジェダイの復讐』を拒否して監督をした『デューン・砂の惑星』について考えてみると、この作品には明らかにリンチのイメージが強く反映されているのである。
 リンチは無機的(非生物的)なものと有機的(生物的)なイメージの二つに芸術性を見出す傾向がある。この傾向は映画だけに限ったものではない。リンチの絵画から映画、写真にいたるまでを網羅した美術書『IMAGES』を見るとこの傾向は一層明らかになる。


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この本の中でリンチの写真作品は工場を無機的に捉えた「Industrial(工業的)」と題された作品群と病理標本などを捉えた「Organic phenomina(有機的現象)」と題された作品群にわけられている。
『デューン・砂の惑星』においてもこの「無機的」そして「有機的」なイメージが両方とも使用されている。無機的なイメージはハルコネン家がすむ惑星ギエディ・プライムが工業都市のイメージで作られれていることから明らかであり、また有機的なイメージは『イレイザー・ヘッド』の新生児を彷彿とさせる第三ステージナビゲイターの外見に顕著に現れている。
それ以外にも後のリンチ映画に見られる表現の数々の原型とも思われえるイメージが『デューン・砂の惑星』の随所に登場する。滴り落ちる水滴のイメージや、ときになんの脈絡もなく登場する炎のイメージはのちにカンヌ映画祭でグランプリを受賞する『ワイルド・アット・ハート』のイメージと重なる。


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 リンチ映画の持つ特徴は二面性、つまり表面的な外見の下に潜むもうひとうの別の姿を描き出すことが挙げられる。人気作『ツインピークス』は平和な田舎町の裏に潜む醜悪な人間の本性が描かれている。感動作と考えられがちな『エレファントマン』も結局は変形した主人公の外見とその中にある心の純粋さという二面性が描かれている。そして『ロストハイウェイ』では殺人を犯した男が別の人格に逃避する姿を、『マルホランド・ドライブ』では現実の厳しさから妄想の世界に逃避する女性の姿を描いている。つまりリンチ映画を理解する上で表面的な物語や映像の下に潜むもうひとつの意味を考えることは重要なファクターとなる。
 『デューン・砂の惑星』においても様々な映像表現の裏にいくつもの意味やメタファーが込められている。つまり、多重構造を持っているのである。その最も顕著な例をひとつ挙げると、砂の惑星アラキスの巨大な砂虫である。この砂虫はあきらかに男性の性器を象徴している(砂虫のイメージ自体は原作が出版されたときにすでに表紙画として存在したため、リンチが男性性器をイメージしたとすることには異論があるかもしれないが、リンチ自身が描いたデザイン画では砂虫はより露骨に男性性器の姿をしている)。
 さて、リンチ自身は『デューン・砂の惑星』を監督したことを後悔している。今年になって出版されたリンチのエッセイ集『Catching the fish』の中でもリンチは『デューン・砂の惑星』のことを苦々しく語っている。リンチは『デューン・砂の惑星』に関しては撮影現場でのことも不満に思っているようだが、その最大の不満はファイナルカット(最終編集)権がなかったことのようである。
 もともと、撮影が終了した段階でリンチ自身が編集した『デューン・砂の惑星』は四時間近くあったとされている。このリンチ編集版は原作者のハーバードも納得する完成度だったといわれている。しかし、プロデューサーのラウレンティスはファイナルカット(最終編集)権が自分にあることを利用してこれを二時間強にまで縮めてしまった。リンチはこの二時間バージョンを見て「悪夢だ。私はデューン(砂漠)で死んだ」と表現した。


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(こちらの中に「デューン」についてリンチがエッセイを書いている)

 しかし、ここでラウレンティスを一方的に非難するのは公平とはいえない。ラウレンティスは自伝である『DINO』の中で再編集を希望したのは配給元のユニバーサルであり、自分は逆にファイナルカット(最終編集)権が自分にあることを利用してこの再編集の要求を拒否しようと思っていた、と明かしている。しかし、それでも再編集に踏み切ったのは「ユニバーサルが三千万ドルもの出資を行っており、それを考えると断れなかったから」と説明している。


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 この再編集が後ろめたかったのか、ラウレンティスはその後リンチに『デューン・砂の惑星』のテレビ放送に際してリンチに完全版を作らないかと持ちかけている。しかし、この申し出をリンチは拒否し、テレビ放送に際して自分の名前を監督のクレジットから外すように要求した。また、リンチの最も大きな功績のひとつである脚本に関しても自分の名前をクレジットすることを拒否し、このテレビ版では脚本担当を「ユダ・ブース」の名前で表示するように要求している。「ユダ・ブース」、つまりイエス・キリストを裏切ったユダとリンカーン暗殺犯、ジョン・ウェルクス・ブースを組み合わせた名前である。『デューン・砂の惑星』で、「自分の芸術性を裏切り、作品を殺した」という意味だろうか。


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(こちらがTV放送版)

 しかし、リンチのキャリアはこの『デューン・砂の惑星』で大きく発展したと言っていい。リンチは『デューン・砂の惑星』の後、ラウレンティスと再び組み『ブルーベルベット』を監督する。今回リンチはファイナルカット(最終編集)権を手放さなかった(その代わり監督料を半額にされた)。『ブルーベルベット』はセックスと暴力を美学にまで昇華させた異色映画で、リンチのビジョンが存分に注ぎ込まれた作品といえる。この作品は批評家にも絶賛され、リンチのカルト映画監督としての地位が確立されたと言ってもいい。つまり、これ以後のキャリアで自分の持つ芸術的イメージを存分に映画として表現することが可能になったわけである。


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(傑作だ)

 つまり、『デューン・砂の惑星』がなければカンヌ映画祭グランプリの『ワイルド・アット・ハート』も『ツインピークス』も『ロストハイウェイ』『マルホランドドライブ』も、そして今年公開の『インランド・エンパイア』もありえなかったのである。

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  • Date : 2014-07-08 (Tue)
  • Category : 映画
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