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解説・クローネンバーグ監督「危険なメソッド」

10月27日公開の「危険なメソッド」。

20世紀初頭の精神分析の黎明期をフロイトとユング、そしてその間で重要な役割を果たしたひとりの女性、ザビーナ・シュピールラインを通じて描かれた作品だ。

史実に忠実でありながら、美しい、そして知的な男女の物語として完成している。

そんな作品の鑑賞の手引きとなるようなレポートは今回はお届けしたい。
ネタバレというほどのことは書いていないつもりです(そもそもネタバレを気にするようなタイプの作品ではないので・・・)


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ジークムント・フロイトは精神分析の父とも呼ばれる精神科医だ。
20世紀初頭には精神疾患に関してはラディカルな外科的治療や電気ショックなどによる治療も試みられていた。そんな中で分析によって治療を試みることを提唱するフロイトは革命的存在だった。

有名なところだがフロイトの精神分析は「夢」の中に現れる事柄を分析していることで、その中に「性的」な要素がある、と考えることだった。たとえば夢の中に赤い風船を持っている女性が現れれば、それは夢を見ている本人がその女性の「乳房」を連想していることになる。


そしてフロイトの考え方の三つの柱は性の欲求(リビドー)、死に対する欲求(タナトス)、そして父親殺しに関する無意識の葛藤(エディプス・コンプレックス)だ。

精神を分析する上で、当時タブーとされていた人間の性的欲求を持ち出し、さらには近親相姦、サディズム、マゾヒズムにいたるまで言及することを恐れなかったフロイトはまさに革命児であり、危険視もされた。

映画の中でフロイトとユングがアメリカの学会に向かうシーンがある。
アメリカに到着したフロイトは「アメリカは我々を歓迎しているが、本当は私たちは疫病を持ち込んでいるのだ」と言っている。この台詞の背景には上記の事情があるのだ。

実際、アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズはフロイトを「最も危険な方法(メソッド)を操る」と評した。つまり、この映画の題名の由来だ。

一方でユングは一時、フロイトを師として慕っており、その提唱した考え方もフロイトに大きく影響を受けている。しかし、フロイトと決定的に異なるのはフロイトは個人的な無意識が精神分析の土台に存在する、と考えたのに対してユングは人類に共通する無意識、すなわち「集合的無意識」がある、と提唱した点だった。

ユングによれば「集合的無意識」は個人を超えて存在していて、夢の原型となりさらに歴史上も神話などにその跡をとどめていることになる。

フロイトとユングは最終的に決別し対立することになるのだが、近年まで二人の対立はこの学問的立場の違いから来たのだと考えられていた。

しかし、1977年に映画のヒロインであるザビーナ・シュピールラインがユングとフロイトと交わした大量の手紙がジュネーブ大学の地下室から発見された。

ザビーナ・シュピールラインはユングが精神分析を行った最初のヒステリー患者で、治癒後にチューリッヒ大学医学部に入学し精神分析医となった。さらにユングとは愛人関係にもあった。

映画の中でザビーナのヒステリーの原因は「父親へのマゾヒズムに基づく近親相姦的欲求」にあったことが明らかにされている。非常に映画的な展開なのだが、これは実は真実だ。

ザビーナについては当初、ユングの最初の症例にして愛人、といった程度の評価しか与えられていなかったのだが、この書簡集の発見によってユングだけでなくフロイトにも多くの影響を与えてきたことが明らかになった。特にフロイトが提唱した「死への欲求(タナトス)」の考え方の基盤はザビーナの論文であったことも明らかになってきている。



そんな精神医学の幕開けを三人の医師を中心に静かに、そして淡々と美しく描き出したのが「危険なメソッド」だ。

そして知的に楽しめる点として、当時、フロイトが提唱した「性の欲求」「死の欲求」そして「父殺し」のすべての要素がこの映画にはきちんと描きこまれていることだ。

特に「父殺し」に関してはフロイトがユングにとっての「父」を象徴するように描かれている点にも表れている。
さらにすばらしいのが、時代背景をきちんととらえている点だ。
当時はユダヤ人に関する差別が露骨にあった。アーリア人のユング、そしてユダヤ人のフロイト、この事実が二人の間に微妙な影を落としていたことも余すと来なく描かれていた。

今日、フロイトの考え方を精神分析に応用している医師はほとんどいない。夢に関しても、その日一日に経験したことを長期記憶に移行させるためのプロセスの見せている姿に過ぎないのではないか、と現代の脳科学では考えられているようだ。そしてそのプロセスの中では理性による抑制がないので、自分に中で隠れている「本当に感じたこと」が現れているのかもしれない。
フロイトが夢を解析する上で「性の欲求」が現れている、と解釈したのは、フロイトが診ていた患者のほとんどが上流階級の出身だったことによる。当時の上流階級では性に関することはすべてタブーであった。したがって患者のほとんどが「性」に関することが普段の生活の中では自然と抑制されていたために、夢の中に出現する頻度が高かったのかもしれない。

しかし、それでもフロイトの考え方は画期的だ。それは哲学史の中で起きた「事件」だったのだ。


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(フロイトの哲学史の中での位置づけについてはこちらの本がおすすめ。実際、これほどわかりやすく哲学のすべてを網羅した本はほかにはないだろう)

最後にクローネンバーグ監督の、この作品に関する考え方も少し考察してみたい。
クローネンバーグ監督はインタビュー等の中で、魂や死後の存在を信じていない、と言っている。フロイトやユングたちが行った精神分析というのは「精神の病」が「症状(ヒステリーなど)として出るという考えに基づき。それを対話・分析を通じて治療する、というものだった。
これは肉体と精神は不可分のものであり、上記のクローネンバーグ監督の考え方を代弁しているようなものかもしれない。

クローネンバーグ監督が巨匠となった今、満を持して取り込んだのが本作かもしれない。

秋に知性を磨く最高の作品だ。



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  • Date : 2012-10-22 (Mon)
  • Category : 映画
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