この本はアメリカ、ヨーロッパでベストセラーを記録した。この作品がアメリカ、イギリスなど第二次世界大戦時の旧連合国において高く評価されたことは実に意義のあることだ。
この物語の主人公の女の子、リーゼル・メミンガーはナチス政権時代のミュンヘンで養父母のハンスとローザとともに暮らす女の子だ。
彼女は世界中のどこにいる女の子とも変わりはない。ただ、普通の子供より本を読む喜びに魅せられた子供なのだ。
リーゼルは字もあまりよく読めなかった。アコーディオン弾きの養父も洗濯婦の母もあまり字は読めない。
リーゼルはひょんなことから盗んでしまった「墓堀人のガイド」という本を養父と読むことを通じて本を読む喜びに取り付かれるが、激動の時代に飲み込まれていく。
この作品が画期的なことは、主人公たちがナチス政権下のドイツ人であることだ。
以前、イギリス人の知り合いがスタジオ・ジブリの「火垂るの墓」を見て私に「感動した。最近、ドイツや日本の映画を見ることがあるんだけど、それで第二次世界大戦のときにもドイツや日本にも『いい人』がいたんだ、って初めてわかったよ」と伝えてきた。
日本人の私としては「当たり前だろう」と思うのだが、これが旧連合国側の人たちの偽らざる第二次世界大戦観なのだ。いや、このイギリス人が無知だっただけだ、と思うかもしれないが。私にこの発言をしたのは立派な生物学の博士号を持った大変優秀な科学者なのだ。「スター・ウォーズ」の監督で知られるジョージ・ルーカス監督もベトナム戦争反対を訴える立場から「アメリカにとって最後の正義の戦いとは第二次世界大戦だった」と発言していた。つまり、アメリカやイギリスの人にとって第二次世界大戦とは単純に正義対悪の戦いだったと捉えている人は決して少なくない。
そんな中でこのマークース・ズーサックの「本泥棒」ナチス下の庶民たちの暮らしをあざやかに描いている。
本好きな女の子、口は悪いが愛情に満ちた母、慈愛に満ちた父、わんぱく坊主の親友の男の子、すべてがどこにでもある光景だ。彼らは決して、イギリスやアメリカの人たちが思うような「洗脳された」「悪の権化」などではない。ごく普通のささやかな幸せを求めている人たちに過ぎない。
この登場人物たちの姿はイギリスやアメリカの人たちにとっても新鮮に写ったのかもしれない。
さらに、この物語は「本を読む」という「知的作業」の喜びを訴えていることに関しても読書好きの心をくすぐる。
作者がオーストラリア人であることがアメリカやイギリスの人たちに広く受け入れられた理由かもしれない。
ジブリの「火垂るの墓」すら一部のアメリカ人の間(非常に少数派ではある)からは「日本人の持つ被害者意識が見える」と評されることがあるくらい、敗戦国側の作家の書いた作品は戦勝国側には受け入れられることは難しい。
しかし、オーストラリア在住の作家ということで、そのハードルは下げられることになる。
ちなみに作者のズーサックの両親はナチス下のドイツで育ったドイツ人であり、この作品は作者の両親の経験がベースになっているそうだ。
したがって、強制収容所に送られていくユダヤ人たちの群れに主人公たちがパンを与える場面などはフィクションではなく、当時、実際にあったことなのだそうだ。
ちなみに作者の父は主人公の親友、ルディのモデルなのだそうだ。
この作品でもうひとつ、アメリカやイギリスの人たちに受け入れられる上でのハードルを下げているのは、物語全編が「死神」の視点から語られていることだ。「死神」は戦争においてどっちに立つわけではない。常に中立の立場にいることになる。したがって、作者がこの物語で行っている主張はあたかも「死神の主張=中立な視点」のように聞こえて、抵抗なく受け入れることができる仕掛けになっている。
最後にこの作品を読む上で、題名についてあまり言及している書評がないので触れてみたい。
「本泥棒」という題名は主人公のリーゼルが本を読みたいあまりに本を盗む行為を繰り返したことに基づいているようにも見える。たしかにその一面はあるだろう。しかし、もうひとつの意味があるのではないかな、と思う。それはナチスが行った焚書の中で「本」を燃やしたことに由来しているのではないだろうか。ヒトラーは人々から「本」を「文字」を奪ったのだ。それをこの少女は果敢にも「盗み返した」。つまり「本」を権力が奪おうとした(本泥棒)から少女は本を盗み返してやったのだ(これもまた本泥棒だ)。
それがこの本の題名の持つもう一つの意味かもしれない。
さて、例によってこの作品も原書で読んだ。作者はもともと児童文学の作家なので非常に英語が読みやすい。さらにこの作品のオーディオブックもナレーションがゆっくりと読まれていて聞き取りやすい。ヒアリングの勉強に最適だ。
英語力をつけたい人にはお勧めだ。
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